室井 あの脚本は<人間はみんな変>っていうことなのかな?
古川 そうですね。大前提としてそのテーマがあって、<人間>って言う枠組みから外れちゃった人を精神異常者って呼んでみたり、あの人変わってるって言ってみたりしてるっていうだけで。とはいえ、その人達の中にも色んな人がいる訳で、その枠組みは一体誰が決めたんだって。みんなどっかしらではみ出たり、入ってきたり、フラフラしたりしてるじゃないですか。
室井 それは絶対あるよね。この脚本を読んで、みんなちょっとずつだけど、どこかがおかしいんだって思った。死んだ時に頭の中身をフロッピーディスクみたいにして、今まで勉強した事を子供に継がせる事ができるって話が仮にあったとするじゃないですか。そんな話があったとしたら、私は絶対に嫌だなって。勉強した事を楽に継がせられたら良いと思うけど、その他に考えてるエロい事とか、エグい事とかもバレちゃう訳で。もしそれ(フロッピーディスク)を高値で売れるって話になっても絶対に嫌だなって。
古川 自分の考えてる事が簡単に他人に見えちゃったら絶対に嫌ですね。絶対に他人には見せられない、どす黒い事も考えたりしてるわけで。PTA会長とかが「不健全図書だ!」って締め付けてエロ本を見せないようにするとか、理解できない。
室井 私は自分の小説を書く時に自分がエロい事を書いてるって認識がなくて、どっちかって言うと、今どうやって生きて行くかとか、そういうことを真面目に書いているつもりだったんだけど、何故か18禁とかになっちゃって(笑)。
古川 (笑)
室井 すごい不思議だ。
古川 あれは一体なんなんでしょうね。あんた達だって(エロ本を)読んだでしょっていう。
室井 いい年してエロい事を知らない人はいない。だから、そこを隠そうとするとおかしい話になるけど、じゃあって線引きしようとすると難しいことなんだなって思って。
古川 「社会的に問題がある」って線引きも曖昧ですよね。
室井 でも社会の目がないと、みんな異常者になってると思うんだよね。
古川 なるほど。そうですね。社会のルールは周りの目で作られてる所があるんですよね。
室井 明日もあさっても社会の中で生きてかないといけないからね。
古川 室井さんの『熱帯植物園』拝読させて頂きまして。
室井 ありがとうございます。
古川 その話の中で特に印象的だったのは、おばあちゃんが火事に遭って、病院に運ばれた時に足だけ見えてて、その部分が焼けこげて黒くなっているシーン。それを病院のみんなに見られて、その間の15分だけ輝く事ができるっていう。人間はやはりどこかで輝きたいというか、そのシーンで人間自体の重みの様なものを感じたんですよね。
室井 色んな輝き方はあると思うけど、私は若い頃くすぶりつづけ、高校時代とかは爆弾を作ってそれと一緒にどっかに飛び込み込めば、それで一発で逆転できんじゃないかって思ってた。(笑)
古川 (笑) 結構そんな妄想とかしちゃうんですか?
室井 しますね。(笑)
室井 今回のお話は精神病院がテーマじゃないですか?
古川 そうですね。
室井 脚本を書く上でいろいろな本を読んだりしたと思うんですが、是非お薦めしたい小説があるの。「老人病棟」ってタイトルだったと思うけど、10年前くらいに発売された本で、痴呆症の老人がいる病院の事を書いてるドキュメンタリーなんだけど、凄く衝撃を受けたんです。おじいちゃん、おばあちゃんが痴呆症で、目を離すとすぐに番(つが)ってるんだって。
古川 (笑)
室井 でも、おばあちゃんは妊娠とかしないし、どこまで放っとくかっていう。
古川 あーなるほど。
室井 人間の本能ってすごいんだなって。
古川 正しい行動かどうかは置いといて、純粋にただの欲求だけで始まっちゃうんですね。
室井 だと思う。この小説は今回の脚本にすごく通じる話かなって思ったの。
古川 是非読んでみます。
室井 多分『老人病棟』ってタイトルだったと思うけど、ハッキリと思い出せない。間違っていたらごめんなさい。でも老いていくって不思議ですよね?子供にもどっていくっていうのかな?
古川 確かに。老人は単純な物事に流れるって言いますよね。あまり考えなくなっていくんですかね。
室井 そうなのかな。でもそうなるとすごく楽になるかもね。
古川 ポンって急に怒って、三日後にはサッパリ忘れてたりしますもんね。
室井 ね。
古川 今回の本はそう言った意味では、若くて気にしちゃう人とか、昔を忘れられないまま年を取った人とか出てくるので。
室井 あの本に登場する絵描きの人の描き方がすごいリアルだなと思った。ああいった事は結構あると思う。私は書けない時は書かなきゃいいじゃんって思っちゃうんだけど。
古川 あ、そうなんですか。
室井 うん。鈴木いづみ全集っていうのが13巻くらいあって、自分も死んでから全部で13巻の全巻が出せたら嬉しい。けど、それは死んでからのことだから、本当はどうでもいいのかな?出版したら毎回評価されている人とかだと書けないって言う事で、すごく辛くなるんだろうと思うけど。書けないって事が社会と繋がれないって事になったりして。
古川 なるほどー。実は、演劇って遅いんですよね。全てが。脚本なんかも自分の同世代の友人は本番の一週間前にできたとか言ってたり。「それはマズいでしょ!」とか言ったりしつつも自分も本番の10日前に台本ができたりする事もあったり。
室井 演劇やってる人って、『ダメ』なこと自慢するよね(笑)。
古川 (笑)
室井 私の周りにも、演劇の人が沢山居るんですが、飲みに行ったりすると、みんなダメ自慢(笑)。
古川 僕も毎回のように「すいません、脚本の〆切今日の朝だったんですけど、夜まで伸ばして下さい」ってお願いしてひいこら台本書いてたり。
室井 そんなダメ自慢ができるのは、そんなに迷惑かけても自分は必要とされてるんだってことを言いたいのかなって思ったり。
古川 あー…。
室井 私は怒られるのが嫌だから〆切前に出すもん(笑)
古川 完全に室井さんが正しいと思います(笑)。寝てない自慢に近いもんがありますよね。「3徹したよー」って言うけど、それは結局そんだけ仕事があるんだぜってのを自慢したいだけというか。逆に仕事遅いって示しちゃってるのに(笑)
室井 そういう事言う人って男の人が多いのかな。そんな人を実は私、「うわー可愛いなぁ」って思っちゃう。回りくどくて、イライラするけど。オレ結構イケてるんだぜっていうのをそのままアピールすればいいのに、できない所が可愛いの。
古川 なるほど。
室井 例えばカップルが別れた時に、女は別れた男の事をケチョンケチョンに言うけど、男は「結構いい女だったんだ」って言う人が多いかなって思ってて。それも男は<そんないい女と付き合ってたオレ>みたいな。基本、自慢というか(笑)。そこは女とは違うなって。
古川 女の人って別れたら基本その男には連絡しないですよね。
室井 でも男はいつまでもアイツはオレの事が好きだとか思ってたりするんじゃないですか?(笑)
古川 僕も恥ずかしながら、彼女に浮気されて、結果こっぴどく振られた時に、以前一番長く付き合ってた昔の彼女に電話をしてしまった事があって、色々と話を聞いてもらったんですよね。そしたら向こうからいきなり「実は私、不倫してんだよね・・・」って言われて。それを聞いて、「俺なにやってんだろう・・・」って気持ちになったり。
室井 私は別れた後にその男から電話が掛かってきたら、「よく電話してこれたね」って笑いながら言ったりとかしちゃう。(笑)
古川 いやー、怖いですね。(笑)
古川 男女でこんだけ考え方が違うんだから、フェニミズムの運動なんかにも色々思う所があって。もう、男女は明確に分けて良いんじゃないのかなって。
室井 私も色々物事をハッキリ発言しちゃうからな(笑)
古川 台本とか書いてて思いますけど、やっぱりまったく別の生き物ですよね、男女は。
室井 全然違うよね。私も息子を育ててもそう思う。多分平均したら女の方が出来がいいと思うの。でも、ひとつのことにずば抜けて突出してるのは男の人に多いのかなと思う。
古川 例えば今そういう人っています?
室井 村上龍さんとか。
古川 あー。なるほど。
室井 絶対普通の人が書けない一言が書けるんだもの。才能勝負だと男の方が強いのかなと思う。売れる小説は女が書くのが多いと思うけど。
古川 確かに女性作家の本の方が『共感できる』ってキャッチコピーが付いてる事が多いですね。男性作家の本は『凄まじい』とかっていうパターンがある気がします。そもそもの違いってのがあるんですかね。
室井 私はあるんじゃないかなって思う。
古川 息子さんに対して一番「オッ!」って思ったこととかあります?
室井 「オッ!」ってことじゃないけど、息子が塾に通ってて、毎回交通費を渡してるんですけど、毎回その塾の場所から家まで走って帰って交通費を誤摩化そうとしてるんですよ。なんで汗だくなのとか聞くとすぐに「バレたか」とか言っちゃって馬鹿だと思う。
古川 分かります。僕も文房具を安く買って誤摩化したりとか、そんな経験ありますね。でも小学校とか中学の時ってやっぱり女性の方が圧倒的に大人ですよね。
室井 全然女の子の方が大人ですよ。
古川 それは今も変わらないんですかね。
室井 変わらないと思う。どっかの外国の人が書いてる本を読んだんだけど、感情って女の人の方が多いんだって。
古川 え、そうなんですか。じゃ、男の方が単純って事はもう本当の事なんですかね。
室井 私は息子の国語のテストの答案を見てて、説明文は出来るけど、小説というか物語文が全然できてなくて。その時に、そうかもしれないって思っちゃったけどね(笑)
古川 今回は精神異常者っていうのがテーマにあって、自分も台本を書きながら、オレって精神異常者なんじゃないかって思ったりするんですが、室井さんはそんな時ありますか?
室井 ちょっと精神異常者じゃないかなって思うくらいなら精神異常者じゃないと思う。
古川 確かに。精神異常者って自覚した時点で精神異常者ではないはずですもんね。分かろうとしてどこかで俯瞰して見ちゃう時点で異常ではない、異常になりきれないんですよね。では室井さん、自分が狂ってると思う時、ありますか?
室井 ん~、独り言を大きい声で言っちゃって、ハッと自分でびっくりする時があるんですよね。家の中でとか。あとは睡眠導入剤などを飲まないと寝れなくなっちゃうんです。ずっと原稿のことを考えちゃったり、今日一日あったことを考えたりとか、薬を使って強制終了しないと寝れなくなっちゃうんですよね。でも、無理矢理強制終了して寝ても、朝起きた瞬間に「でもさ!」って昨日の寝る前の続きから直ぐに考えちゃってる時があるんだよね。
古川 睡眠時間がショートカットされてる(笑)。栞を挟んでその続きから読んでるみたいな感じですか。
室井 そう。のりしろとかも全然なくて、完全に続きから始まっちゃったりして、気持ちわるーって。
古川 それ、危ないんじゃないですか(笑)。人間は寝てる時に記憶を整理して、次の日が始まるはずなんですけど、室井さんの場合は続いちゃう(笑)。
室井 そうかな。(笑) あとは、夢がすごいリアルで現実か夢か分からなくなることかな。
古川 それは、目が覚めて「あ、夢だったか」って分かるって事ですか。
室井 いやいや、お酒をすごく飲んで寝た日とかにトイレ行きたくなって一回起きるでしょ。そしてトイレに行くっていう内容の夢を見たりすると、現実でもトイレに行きたくなっているから、その時に現実か夢か分からなくなる。(笑)
古川 (笑) 危険ですね。
室井 だから夢の中で色んな事をやってみるの。便器はこんな感じとか、ウォシュレットを使ってみたりしてこの水の当たった感覚は現実っぽいが、まだダマされないぞって感じで。うちのトイレは本来トイレットペーパーを入れる所に本とかビー玉を隠して入れてるの。何でかって言うと、夢の時にここにビー玉を置いてあるって確認する為に。ビー玉が置いてないと「あ、これは夢だな」って認識できる。でもそのビー玉も普段からちょっとずつ移動とかさせないとダメなの。夢に追いつかれちゃうというか。
古川 そんなに真剣なんですね(笑)。僕は実家にいたときに、おしっこしたくて起きたんですけど、普段の景色と違ったんですよ。ちょっと薄暗くて。あれ?って思ったんですけど、でも便座の位置はここで合ってるはずだって、そこで用を足したんですけど、気付いたら自分の部屋のクローゼットにしてたんですよ。洋服とかおしっこでびしゃびしゃになって。自分で洗濯しながら「オレ、何やってんだろうなー」って悲しくなっちゃって。
室井 ほんと死にたくなるよね(笑)。そういえば、中学くらいから現実か夢か分からなくなる時があった。私が中学の時に金八先生の第2部を放送してたんだけど、その放送が終わった後に、夢の中で次は西田敏行さん主演のドンパチ先生ってのが始まるって予告を見て。
古川 (笑)
室井 ホントに見たの!その宣伝番組を!で、学校行って「次はドンパチ先生だよね」ってみんなに言ったら、誰もそんなの知らなくて、その後3ヶ月くらい『ドンパチドンパチ』って言われちゃって。でもホントに見たの。テーマソングも歌えるくらい覚えてたもん。(笑)
古川 どうなってんでしょうね。(笑) そん時の頭の中というか。
室井 古川さんは自分が狂ってると感じる時ってあります?
古川 僕は、酒癖が悪いんですよ。もうだいぶ大人になりましたけど、昔はお酒飲んで良く骨を折ってたりしてました。しかもそれやったら絶対に折れるよ、って分かってるはずなのに、やっちゃうんですよ。昔江古田駅の近くの飲み屋で飲んでて、江古田駅って屋根が登りやすくできてて、いつか登りたいなって思ってたんですけど、酔っ払った時に登って、飲んでた友達に上から「おーい」って手を振ったりして。で、まあ大丈夫だろって思って屋根から飛び降りた時に踵をパキっと…。
室井 その時って、折れたって感覚はあったの?
古川 折れたってのは分かんなかったです。痛ぇーとか言いながら笑ったりしてました。
室井 そだね。そんな時って、全く痛くないというか覚えてないんだよね。
古川 記憶が飛びやすいんですかね。 酔っ払うとタチ悪くなって、警察とかに呼び止められると色々文句とか言ってしまいたくなります。
室井 いいじゃん。それで留置所入っちゃえば(笑)。経験だよ。それで留置所の話も書けるしさ。
古川 それは結構魅力的ではありますね(笑)。
古川 そういえば、室井さんの小説ってダメな男代表として演劇人が良く出てきますよね。
室井 だって演劇人でダメな人、何人か知ってるんだもん。(笑)
古川 身近にいたんですか?ゴールデン街で飲んでるときとか。
室井 ゴールデン街なんて佃煮にするほど沢山いますよ。(笑)
古川 そんなことは無いとは思いますけどねぇ(笑)。室井さんは演劇の台本とかは書いたりしないんですか?
室井 書いたことないですね。どうやって書いたら良いのか分からない。基本会話劇じゃないですか。
古川 もし自分が書いた小説で、これだったら舞台でできそうだなって思う作品とかありますか?
室井 うーん。『花園マッサージパーラー』とかかな。巣鴨のおばさん2人の話。あれが一番会話だけで押してる作品なので。あれは意外と同業者からは一番評判がいい。演劇のおもしろさって、会話のおもしろさなのかなって台本を読ませてもらって思ったんですよ。そうすると、やっぱりこの作品がいいのかなあって。演劇って起承転結とかあった方がいいの?
古川 いや、そうとは限らないですけど。
室井 映画の脚本だったら考えられそうな気はするんですけど、舞台とかの一つの空間でのお話って、どこまで出来るのかなって。どこまで行けるのかってのが全然わからないですね。
古川 実は結構自由なんですよ。例えば火事とか、血まみれとかの表現も、表現としてやっちゃう事もできるし、人の内側にあるものを会話で表現したりする事もできるし、場所を飛ばしたり、案外自由に表現できます。
室井 あ、そっかそっか。だとすると、『おもろい夫婦』っていうのもいいかもしれない。幸せそうに見える夫婦の夫が浮気をしていて、それに対抗して妻も浮気したりして。お互い嫌い合ってる話なんだけど、最終的に夫婦でその妻の浮気相手を殺しちゃって、その死体を庭に埋めないといけなくなっちゃって、憎み合ってる夫婦が2人で協力して生きて行く話。
古川 いいですね。
室井 私、殺しとかは面白く書きたいんですよね。最近はエロをどうにかして面白く書きたいなって思ってるんだけど、ただエロは元々面白いというか、変な体勢になったり、変な声を出したりしているから、元々変な事で面白いことを面白く書くっていうのは難しいんですよね。
古川 そうですね。面白くエロを書くってのは難しいかもしれませんね。今回の話で首を絞められるシーンがあって、そこは個人的にエロを頑張った所です。
室井 あ、あの奥さんですよね。あの奥さんはキャラクターがあって、すごい面白いなと思いました。あと院長もいいなあと思った。
古川 ありがとうございます。そういえば、女性ってSEXをしてる時に首を絞められると興奮するって人がいるらしいんですけど本当ですか?
室井 それは、女は自分がされた事を喜んだ方が男が喜んでくれるから、喜んでるフリをしてるだけなんだと思う。
古川 え、男がやりたいからやってるだけって事ですか。
室井 そうですよ、たぶん。そして自分にも刷り込むんですよ。それが男が喜んでくれるし、自分も良いのかもしれないって思い込んじゃうから、そうなるんじゃないかな。
古川 そっか。性欲って結構刷り込みの要素ってありますもんね。
室井 私、どんな女でも男が変態だと、その女も変態になると思う。その場に合わせるのは得意だから、女は。その場での喜びを見つけるのも。
古川 男はがむしゃらなだけですもんね。(笑)
室井 女は合わせるだけだと思う。まあウンコ食えって言われたら難しいかもしれないけど(笑)。
古川 それは確かに難しい(笑)。
室井 というか、こんな取り留めの無い話でいいの?
古川 大丈夫です。
室井 ほんとに?じゃあ今度はゴールデン街で飲みながら話したいですね(笑)
古川 あ、いいですね。じゃ是非ゴールデン街で(笑)。
室井 そうだね。ゴールデン街で。



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